賈[言羽] 文和(かくぶんわ)

姓：賈
名：[言羽]
字：文和
生没年(146-223)
出身地：涼州武威郡姑臧県
親：
子：賈穆、賈訪

若い頃は認められなかったが、閻忠という人物だけは「張良や陳平(前漢の最初の皇帝、劉邦の参謀) のような奇略がある」と評した。役人となったが病気になったので故郷に帰ろうとしたが、そのとき[氏一]族に襲われ一行は拘束された。賈[言羽]は[氏一]族に「私は段公 (当時辺境を警備して、異民族に恐れられていた武将)の親戚である。私を他の者とは別に埋葬すれば、親戚たちは十分に礼をして遺体を引き取りに来るであろう。」と言った。 [氏一]族はその言葉を信じ、賈[言羽]を殺さずに、丁重に送り出したが他の者は殺されてしまった。実際賈[言羽]は段公の親戚ではなかったが、彼の臨機応変さはこのように見事なものであった。

董卓が洛陽に入ると、賈[言羽]は討虜校尉に昇進し、董卓の娘婿である牛輔に仕えた。董卓が死ぬと牛輔も部下に殺されたので李[人寉]、郭[シ巳］、張済らも軍隊を解散して、間道を通って故郷に帰ろうとした。賈[言羽]は「長安では涼州人を皆殺しにしようとしていると聞きます。いま軍隊を解散して逃げれば亭長(一番小さい行政単位の長)にすら簡単に捕らわれてしまいます。軍勢を引き連れて長安を攻撃して成功すれば天子さまを奉じて天下に号令すればよし、失敗すればその時逃げるのでも遅くはないでしょう。」と進言した。李[人寉]たちはこの言に従い長安を攻撃して王允、呂布らを打ち破った。李[人寉]は賈[言羽]の功績を評価して侯に封じようとしたが、「あれは生命を救うための計略でした。どこに功績がありましょう。」と言って断った。結局尚書に任命され、人材登用を行い政治を矯正したため、李[人寉]らには煙たがられた。李[人寉]と郭[シ巳]が戦った時には李[人寉]により宣義将軍に任ぜられた。献帝が長安を脱出する時に、賈[言羽]は大臣たちを李[人寉]から守り、天子の印綬を脱出後に一行に送り届けた。

当時将軍の段隈が華陰に駐屯していた。賈[言羽]は同郷の出身だったので李[人寉]の元を離れて段隈に身を寄せた。賈[言羽]は既に有名な人間となっており、段隈軍の期待の星となった。段隈は内心賈[言羽]に乗っ取られるのではないかと恐れながらも、表向は賈[言羽]を礼遇したので賈[言羽]のほうも不安であった。南陽に駐屯していた張繍に招聘されて賈[言羽]は段隈の元を去ろうとした。ある人が「なぜ段隈将軍はあなたを礼遇しているのに去ろうとするのか？」と賈[言羽]に問うと、「段隈将軍は猜疑心が強いので私のことを疑っています。私が去れば喜ぶでしょうし、私が外の強力な勢力と結びつくことも望んでいます。したがって私の家族が害されることもないでしょう。」と答えた。賈[言羽]の予想通り、張繍は彼を礼遇し、段隈は賈[言羽]の家族を大切にした。

賈[言羽]は張繍に劉表と同盟を組むことを進言した。賈[言羽]は劉表と会見し、劉表は賓客の礼をもって賈[言羽]をもてなした。賈[言羽]は劉表のことを「平和な時代なら三公になれる人物であるが、事態の変化が見抜けず、猜疑心が強いため何事も成せないだろう。」と評した。曹操はこのころ張繍討伐を行ったが、ある日突然撤退した。張繍はこれを追撃しようとしたが、賈[言羽]は「追撃すれば必ず負けます。」と言った。張繍は追撃を行い、予想通り負けて帰ってきた。すると賈[言羽]は「急いでもう一度追撃すれば必ず勝てます。」と進言した。わけもわからないまま張繍は追撃を行ったが今度は大勝して戻った。このわけを正すと賈[言羽]は、「張繍どのは戦は上手だが曹操ほどではありません。曹操は必ず精鋭を率いてしんがりをつとめるので、張繍殿が精鋭を率いて追撃しても勝てません。曹操は作戦で負けないうちに撤退するのだから、本国で異常があったに違いありません。したがって一度追撃を撃退すれば軍を軽装にしてしんがりを部下に任せるでしょう。そのときは張繍殿が追撃すれば敗残の兵を再度率いても勝てると思ったのです。」と答えた。張繍は感服した。

官渡で袁紹と曹操が対峙すると、袁紹は張繍に使者を送り味方にさせようとした。張繍はこれに応じるつもりであったが賈[言羽]は曹操の配下になることを張繍に勧めた。張繍は「仇敵の間柄である曹操につくのはいかがであろうか」と二の足を踏んだが、賈[言羽]は「第一に曹操は天子を奉じています。第二に袁紹は強大ですから我々が小勢を率いて行っても軽く見られます。でも曹操は弱小なので我々は歓迎されるに違いありません。第三に天下支配の志を持つ者は個人的な恨みよりも徳義を天下に知らしめることを優先しなくてはなりません。どうか張繍殿はためうことのありませんよう。」と進言した。張繍はこれに従って軍兵を率いて曹操に帰順した。曹操は賈[言羽]の手を握って「私に天下の人々の信頼と尊重を与えてくれるのは君だ。」と言った。

曹操に従って官渡の戦いに参加し、烏巣を守る淳于瓊を攻撃することを勧めた。河北が平定されると太中大夫に任命された。荊州を手に入れて長江を東へ進もうとしたとき賈[言羽]は反対した。結果的には赤壁で曹操軍は敗れることとなる。韓遂・馬超と対戦した際、激戦の末馬超らは講和を求めた。賈[言羽]は計略を立て、曹操に馬超の前で韓遂とわざと親しげに昔話をさせたため、馬超は韓遂を疑うようになった。また、韓遂にわざと訂正を何箇所も行った文書を送ったため、それを韓遂に見せられた馬超はますます韓遂を疑った。この後曹操軍は馬超と韓遂を打ち破ることに成功する。

当時曹丕は五官中郎将となっていたが、弟の曹稙の評判は彼以上であり、どちらが後継者となるのか、議論は絶えなかった。曹丕は賈[言羽]に自分が後継者になるための方策を求めた。賈[言羽]は「有徳の態度を尊重し、無官の人物のごとく謙虚に振る舞い、朝から晩まで怠らず君子としての行いに務めるべきです。」と答えた。また曹操は後継者問題について、他の人を遠ざけて賈[言羽]に質問した。しかし賈[言羽]はずっと黙ったままなので「なぜ答えないのだ？」と聞くと、「いまちょうど袁本初(袁紹)親子と劉景升(劉表)親子のことを考えておりましたので…」と答えた。曹操は大笑いして後継者を長男の曹丕にすることに決めた。賈[言羽]は自分が曹操陣営の中では新参者でなおかつ自分が策略に長じていたため、疑惑を避けるためにひっそりと暮らし、朝廷から出ると私的な交際をせず、子供の結婚先にも貴族の相手を選ばなかった。天下の知謀家は彼に心を寄せた。

曹丕の皇帝即位を勧める上奏を行っている。その曹丕の在位時に77歳で逝去し、粛侯とおくり名された。 (魏書・賈[言羽]伝)

「演義」でも大体「正史」に沿った活躍を見せる。李[人寉]配下のときには樊稠暗殺を進言している。曹操が張済の妻、鄒氏との情事に耽っている際に、曹操を火攻めにする案を張繍に進言する。他の活躍は正史にもある通り。

病床にあった曹操が「馬三頭が同じ槽(おけ)で餌を食べている」夢を見たので、この意味を賈[言羽]に聞いた。賈[言羽]は「馬は吉夢、それがおけ(曹)から餌を食べているから良い夢です。」と答えた。しかしこの夢の本当の意味は三頭の馬(司馬懿、司馬師、司馬昭)がおけ(曹)をの中身を食べている、すなわち司馬氏が曹氏を食いつぶして天下を取る、という意味だったのである。

裴松之は賈[言羽]についてやや否定的な評価を下しています。ひとつは李[人寉]らに味方して、人民を苦しめたこと、もう一つは曹氏による漢王朝からの簒奪を荀[或”] や荀攸と違って反対の立場を明確にしなかったことです。このことから荀[或”]、荀攸と同じ巻に賈[言羽]伝を置いたのは陳寿の誤りで、程昱や郭嘉と同じ巻であるべきだと説いています。確かにイメージ的に賈[言羽]は荀[或”]と比べると聖人君子、という感じはありませんね。クールであくどいとも言える筋金入りの策略家である賈[言羽]は、滅び行く漢王朝を守ろうとした荀[或”]よりは現実的だったと言えると思います。

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賈[言羽] 文和(かく ぶんわ)

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